米生産費統計を見ながら稲作経営を考える

米生産費統計を見ながら 稲作経営を考える 栽培

毎年、農林水産省から公表されている米生産費についての統計データがあります。普段そのデータはみる機会は少ないですが、今回、自分の稲作経営と照らし合わせながらみてみました。統計データをパッと見ても、稲作農業の実態は良く分かりませんが、実際の経営を思い浮かべながら統計を見ると、稲作経営の問題等いろいろみえてくるものがあります。稲作経営に興味があるが、具体的な経営像を知りたい方などの参考になれば幸いです。

令和3年産の米生産費の概要

まず、農林水産省近畿農政局が公表した令和3年産の米生産費(個別経営・近畿)の統計データをもとに今回のブログを書いています。

農林水産省の公表データを引用

まず、ざっくりと稲作経営の全体感を確認します。お米の収量については、私の栽培をしている実感としては、コシヒカリで10a当たりの収量は3石収穫出来ればまずます。3石とは、450㎏ですので、玄米15袋/30㎏です。統計データの461㎏と近いです。

そして、令和4年だと等級により若干の差はありますが、出来秋の集荷業者への出荷で1袋5,500円~6,000円くらいです。
ざっと計算しますと、10a当たりの売上が6,000円×15袋=90,000円です。

統計データの物財費が86,839円ですので、粗利10aあたり90,000円-86,839円=3,161円です。
平均の作付面積は115.5aですので、1経営体当たりの粗利は3,161円/10a×115.5a=36,510円です。

半年間頑張った結果、この水準です。(代かきなど時間に追われながらの)田植え、(真夏の暑い中の)畦の草刈り、(天候にやきもきしながら晴れた合間に時間に追われながらの)稲刈り、(30㎏の重い米袋を何百と運ぶ重労働の)乾燥調製。それらをこなして、手元に残るのが36,510円(あくまで平均値の話です)。

正直、これは身近な稲作経営の実感に合っています。

とはいえ、打つ手がないかと言われればそんなことはありません。自分で売り先を探して、少しでも有利な価格で販売できれば、その分だけ手元には残ります。総務省の小売物価統計調査を確認すると、5㎏2,200円となっております。つまり、仮にこの小売りの単価で販売することができたら、玄米30㎏1袋が11,880円(精米すると玄米30㎏→白米27㎏になるので、2,200円÷5㎏×27㎏)で売れれば、粗利は178,200円-86,839円=91,361円/10aと劇的に改善します。ただ、直接販売するためには、別途、保冷庫や追加資材がかかるのが通常なので、物財費も上昇します。

余談。近畿地方のデータについて。

早速の余談です、この段落は読み飛ばしていただいても結構です。近畿地方は全国的には、物財費が全国的にも高めで、高コスト体質の経営が多いといえます。その要因の一つとしては、1経営体当たり作付面積が小さめで、規模のメリットが働きにくいのではないかとみています。

農林水産省の公表データを引用

このあたりの要因として、これは仮説ですが、水田の整備率が低いことがあるかもしれません(滋賀県、兵庫県は水田整備率が全国平均をおおむね上回っていますが、京都府、大阪府、奈良県、和歌山県は全国平均を大きく下回っています)。

出典:農業生産基盤の整備状況について (平成28年3月)農林水産省農村振興局
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/nousin/bukai/h2903/attach/pdf/index-6.pdf

稲作農家の実感として、圃場の整備が出来ていると、畝がまっすぐ・四角の水田は作業効率が遥かに良いです。変形値や小さい水田は、作業効率は良くないです。ただでさえ、米余りで価格が低位で推移している昨今、条件の良くない農地は放置されがちです。多くを輸入に頼っている小麦や大豆を作ればよいではないかと思いがちですが、気候的な問題で収量が上がらないことと、新たな設備投資が必要なことで、思い切って米から転換する勇気は起こりにくいです。

物財費の内訳をみてみる

さて、統計データに戻りまして、物財費の内訳データを詳しく見ていきます。それぞれのデータ項目をみて、稲作農家の実感と照らし合わせてみます。表2の物財費の内訳は構成割合が低いものは、省略してあるので、省略されいるものも書き出した内訳は次の表です。

農業経営統計調査 令和3年産米生産費(個別経営)(近畿)を参考に作成



ちなみに、私の稲作経営については、主要3作業(耕耘、田植え、稲刈り)は集落営農組織(私も一員)で行っております。個人的作業としては、水管理、畦草管理がメインです。集落営農組織の規模は、10haほど。平野部の水田が多いですが、水田整備率は約2割ほどで、面積も10a前後の水田が多く、作業効率は良いとは言えません。この私の経営環境をもとに以下の物財費の内訳を詳しく見ていきます。

農機具費

統計データの農機具費は、31,964円となっています。物財費に占める割合は25.1%と最も高くなっており、稲作経営において最もコストがかかります。
うちの必要な農機具を思い出す限り列挙してみます。
(金額は大体のイメージですので正確性に欠くかもです)

  • トラクター(40馬力 2台)500万円*2
  • トラクターアタッチメント(畦塗、プラウ、ロータリ、ハロー)200万円
  • 田植え機 300万円
  • コンバイン 800万円
  • 乾燥機(4台)100万円*4
  • 籾摺・石抜・色選別機等 400万円

合計2,700万円です。

耐用年数が15年と仮定し、10a当たりに換算すると、18,000円/10aとなります。もしかしたら、コンバインは15年はもたないかもしれません。これに、修繕費が毎年数十万円はかかる気がします。そうなると統計データくらいかかっているかもしれません。

実際の物財費を下げるためには、機械類を大切に利用し、長持ちさせること。また、機械導入時に公的な補助金の利用が出来れば、コスト削減になります。

肥料費

統計データの肥料費は、10,769円です。うちでは、田植え時に基肥一発肥料を使って、10a当たり35~40㎏田植え時に投入しています。4,500円*2=9,000円ほどです。
基本的に、追肥は行いませんが、穂肥の時期に色が薄ければ、追肥をやることもあります。ということで、ほぼ統計データ通りです。

しかし、昨年からの肥料の値上がりはなかなか厳しいです。肥料費は今後も上がる可能性があります。また、一発肥料でなく、肥料の銘柄を変え、基肥・追肥の体系にすれば多少は肥料費は減らせる余地がある気がします。

農業薬剤費

統計データの農業薬剤費は7,615円です。うちでは、除草剤と殺虫剤が一回ずつが基本です。除草剤3,500円+殺虫剤2,500円=6,000円。病害虫はその時の気候により発生の仕方がまちまちなので、生育途中に追加で対応を行う場合もありますので、統計データくらいになるかもしれません。

賃借料及び料金

統計データの賃借料及び料金7,453円です。これは、具体的には良く分かりませんが、水田を借りた場合の賃借料がメインでしょうか。うちでは、現在、水田を借りる場合、賃借料はかからないことが多いです。むしろ、最近では借り手が少ないため、借りる側が管理費として料金を貰うこともあると聞いています。

建物費

統計データの建物費は7,253円です。稲作で建物が必要な理由は、トラクターやコンバインなどの農機具を格納するためと、乾燥調製を行うのがメインの使い方になります。
農機具を乾燥・調製を行う施設を保有する場合、高さのあるしっかりした鉄骨の建物が欲しいとことです。(最近では乾燥調製を外部委託する農家の方も増えています)
建物を建てるのに2,000万円かかって、30年使うとすると 10a当たり6,000円/年ですので、統計データは腑に落ちます。

その他項目について

  • 種苗費(統計データ6,063円)
    水稲の移植苗は自分で種籾を播種して育苗する農家と、苗を購入する農家が多いです。うちは購入した苗を利用していますが、計算すると統計データの2倍ほどのコストになります。実践されている方は少ないですが、水田に直接種を播く直播という方法もあり、こちらが最もコストは低くなると思います。
    コストの順番で行くと直播<自分で育苗<購入苗の順でコストが高くなります。
  • 光熱動力費(統計データ5,229円)
    農機具類の燃料や乾燥調製の際の灯油代や電気代が思い浮かびます。あまり節約する余地は思いつきませんが、軽油引取税の免税などは利用したいです。
  • 自動車費(統計データ3,335円)
    自動車は主に軽トラを利用しますが、うちでは収穫時の籾をフレコンバッグで水田でコンバインから乾燥調製施設まで運びます。あと、水田が離れている場合は、コンバインや田植え機を乗せる車載専用車が必要になる場合があります。
  • 土地改良及び水利費(統計データ2,900円)
    大体、水田の地域ごとに水路の管理など行う組合があり、毎年、定められた単価で組合にお支払いします。組合ではポンプの修理などに使います。
  • 物件税及び公課諸負担(統計データ3,335円)
    農地や減価償却資産に対する固定資産税などでしょうか。
  • その他の諸材料費(統計データ1,338円)
  • 生産管理費(統計データ382円)

最後に、稲作について個人的な想い

以上、見てきたように稲作経営には機械や施設などに少なくない資本が必要になります。その割に、消費量が減るなどにより、価格が低迷して久しいので展望としては明るくないのが実情です。
一方で、日本では縄文時代末期から稲作が行われており、稲作は長い歴史をかけて日本の風土に最も合っている作物といえます。つまり、作りやすく安定的に生産活動が行えるのが稲作です。そして、日本の農地び多くを占める水田を管理する手段としても稲作を行うことが、効率的であり、農地を荒らさずに管理できます。これからも農家数は減少傾向が続きそうな感じですが、社会的責任感をもって、少しでも次世代に優良な農地が残せるよう微力ながら稲作経営を続けていきたいなと思っています。

今回のブログではこちらの書籍を参考にしました。生産者や消費者だけでなく、ビジネス、学生の方も興味深く読める内容になっておりおススメです。

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