令和5年12月6日に農林水産省を事務局とした「不測時における食料安全保障に関する検討会」が”取りまとめ”を行いました。内容については、私も含めた農家の経営にも影響のありそうな部分がありますので、取りまとめ資料を読んで農家に関係しそうな部分を読み解いてみます。今回の内容に関心のある農業関係者の参考になれば幸いです。
不測時における食料安全保障に関する検討会の取りまとめ資料のリンクは以下です。
”取りまとめ”を受けてなされた報道について
まず、この検討会の”取りまとめ”を受けて12月6日に毎日新聞でこのような見出しの報道がありました。
政府が食料確保指示の新法提出へ 危機下にサツマイモへ転作要請も
毎日新聞令和5年12月6日
https://mainichi.jp/articles/20231206/k00/00m/010/303000c
これから”取りまとめ”の詳細を読み解きますが、まず、サツマイモ転作云々の話は”取りまとめ”の中には具体的に品目を指定した記述はありません。X(旧Twitter)では、この毎日新聞の報道を見た農業関係者の中から、「サツマイモは基腐病の心配があるので一斉転作には向かないのでは?」というつぶやきが複数確認できたので、指摘しておきます。
”取りまとめ”の目次
”取りまとめ”の目次から農家の営農活動に影響する部分を太字にしてみました。
目 次
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
Ⅰ 不測時における食料安全保障上のリスクの高まり
1 世界的な食料需給の変化と生産の不安定化 ・・・・・・・・・・・・・ 2
2 食料供給を不安定化させる要因の多様化・深刻化 ・・・・・・・・・・ 4
Ⅱ 現行制度の評価
1 政府の体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
2 現行法制度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
Ⅲ 不測時の対策
1 不測の事態の定義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
2 不測時の対策の基本的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
3 基本的な考え方に基づく政府の体制(政府対策本部)と役割 ・・・・・18
4 不測時の対策の対象とする品目・資材 ・・・・・・・・・・・・・・・19
5 平時における対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
6 供給確保のための対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
(1)出荷・販売の調整
(2)輸入による対応
(3)生産の拡大
(4)消費者対策
7 国民の生活に最低限度必要な食料の確保 ・・・・・・・・・・・・・・25
(1)生産の転換
(2)割当て・配給
(3)価格の規制・統制
8 不測時の対策の履行を担保するための措置 ・・・・・・・・・・・・・27
(1)インセンティブ措置
(2)罰則等の法的な担保措置
9 その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
”取りまとめ”から農家への影響をまとめる
「出荷・販売の調整」部分まとめ
”取りまとめ”内容を簡単にまとめます。
「国が状況に応じた出荷・販売の方針を示すので、バランスの取れた計画的な出荷をお願いします。」
「生産の拡大」部分まとめ
農家に影響の大きい個所です、”取りまとめ”内容を簡単にまとめます。
「国が生産を拡大すべき量等を提示し生産者に要請(自主的な取組)します。要請で不足するようであれば生産の指示をします。その際は、経営リスクを下げるための支援も検討します。要請の対象者は、基本的には平時に対象品目を生産している者(+過去に生産していた者。)」
「生産の転換」部分まとめ
農家に影響の大きい個所です、”取りまとめ”内容を簡単にまとめます。
「品目については、カロリーだけでなく労働生産性や栄養素も考慮します。必要に応じて、休耕地も活用します。」
「罰則等の法的な担保措置」部分まとめ
”取りまとめ”内容を簡単にまとめます。
「指示に従わない場合は、罰金ではなく公表措置が妥当。」
以上、農家に関係しそうな部分をまとめると、
「不測の事態が生じたときは、国が農家に生産の要請を行い、さらに食料の不足が見込まれる場合は生産の指示が行われる。対象はその品目を作った実績のある生産者。品目については今のところ決まっていないが、カロリーや労働生産性や栄養素を考慮して決める(検討会の議論から推察すると米、サツマイモなど有力?)。指示に従わない場合は、公表されてしまうかもしれません。」
となります。
主観的な感想
今回の不測時における食料安全保障に関する検討会の”取りまとめ”は、食料・農業・農村基本法の改正に伴い行われております。不測時が起こらないことはもっともよいですが、直近では、ウクライナ問題や円安による肥料の高騰が起こっていることなど、将来に向けての食料安全保障に不安が大きくなっています。平時に不測時を想定したルール作りをしておくことは国家として重要であると理解します。この世の中には、ブラック・スワン(めったに起こらないが、壊滅的被害をもたらす事象)は起こりえます。
不測時に備えて、法整備を含めて体制が整えば、私も一農家として協力できることがあるかもしれません。そのような場合に適切に対応できるように、日々、生産技術の発展を目指して営農していく必要があるなとヒシヒシと感じております。
ブラック・スワンや不確実性については、こちらの書籍が私のお気に入りです。
なお、不測時の食料安全保障については2024年の通常国会に法制化を目指すとのことです。
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