昨年の台風21号で被災したパイプハウスの再建をお手伝いした関係で、農業用ハウスの共済制度である「園芸施設共済」を勉強する機会がありました。共済の存在は知っていましたが、内容については農業用ハウスに掛ける保険のようなもの、というイメージくらいしかなく、詳しく知らなかったので調べたことを整理しておきます。農業をしていると共済と名の付くものがたくさんあって全体像が把握しにくいと感じていました。「園芸施設共済」について興味のある方の参考になれば幸いです。
共済という言葉の意味
まず、「共済」という言葉の意味ですが、googleの辞書機能によると「力を合わせて助け合うこと。」とあります。ちなみに「済」という漢字は「助ける」という意味です。この「済」を使った単語として「経済」があります。「経済」といえば「お金を儲け」というイメージを個人的に持っていましたが、本来は「経世済民」という中国の古典にある言葉を語源としており「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」という非常に尊いことばだと聞いて感動した記憶があります。
話を戻します。農業をしていると「共済」と名の付くものがたくさんあります。農家同士の会話でも共済という単語はよく出てくるのですが、同じ共済という言葉でも指している対象がいろいろあります。ちゃんと区別できないと、会話が成り立っているようで成り立っていないということもあり得ます。
まず知っておいたほうが良い知識があります。「JA共済」と「農業共済組合(NOSAI)」は違うということです。
まず、JA共済は、JA共済連(全国共済農業協同組合連合会)が実施する共済事業です。窓口は地域にあるJAです。具体的には「生命共済」、「建物共済」、「自動車共済」があります。万一の事態が起こった時に備えるという意味では企業が扱う「保険」と同じ仕組みです。ただし「保険」との大きな違いは、共済の目的が営利ではなく組合員に最大の奉仕をすること、ということです。
一方、NOSAIは、農業者の経営安定を図るため、自然災害、病害虫、鳥獣害等によって農業者が受ける収穫量の減少等を、国と農業者(加入者)の拠出に基づく保険の仕組みにより補てんする制度です。
違いをまとめた図を引用します。
農業共済制度について
今回勉強した農業用ハウスの共済制度はNOSAIの「園芸施設共済」です。そこでまずNOSAIの農業共済制度の概要を整理します。
まず制度の目的です。農業保険法に基づき、農業者の経営安定を図るため、自然災害、病害虫、鳥獣害等によって農業者が受ける収穫量の減少等を、国と農業者(加入者)の拠出に基づく保険の仕組みにより補てんする。
運営主体は「農業共済組合」です(市町村の場合もあります)。
主な農業共済制度の種類を記載します。
収穫共済:農作物共済、果樹共済、畑作物共済があります。災害により収穫量が平年に比べ一定割合以上減少した場合に共済金を支払います。
家畜共済:死亡廃用共済(生命保険のようなもの)、疾病傷害共済(医療保険のようなもの)があります。
園芸施設共済:園芸施設が災害により損害を受けた場合に共済金を支払います。
農業共済制度が農家にとって良いところは、農業者が支払う共済掛金の原則50%を国が負担しています。これは、農業保険法に基づく予算措置ですので法律が変わらない限り永続します。非常に有難い制度です。
農業用ハウスの共済は「園芸施設共済」
今回、特に詳しく記載したいのは「園芸施設共済」です。
対象となる災害は
- 風害、雪害、その他気象上の原因による災害
- 火災
- 車両等の衝突
- 破壊及び爆発
- 鳥獣害
など多岐にわたります。
共済の対象は以下の項目を組み合わせて加入します。
- 特定園芸施設(本体+被覆材)
- 附帯施設
- 撤去費用
- 施設内農作物
以下では補償内容の基本的な部分をまとめます。追加で復旧費用なども補償内容に含むことができますが、シンプルにまとめたいため、今回はそれらを除いて考えます。
まず、災害が起こった場合の補償額についての計算式です。
共済金額(補償額)= 共済価額 × 付保割合
共済価額は、「ハウス本体」及び「被覆材」の種類によって単価が決まっており(※)、それに面積を乗じて算出されます。園芸施設共済評価要領を見れば、ご自分のハウス及び被覆材の種類が分かりますので、標準価額を確認することができます。実際に農家が取引会社に新築をお願いする時の価格ではありません。ちなみに、私の営農している亀岡市で多く見られるパイプハウス(25㎜)は、「プラスチックハウスⅡ類」に分類され標準価額が1,800円/㎡となっています。
付保割合は、最高8割を限度として選択できます。4割~8割となっています。
共済金額(補償額)は、現在の相場でざっくり計算すると、業者にお願いする価格(工賃込)の1/3程度になるようです。
次に気になる毎年の共済の掛金についてです。
農家負担共済掛金 = 共済金額(補償額) × 共済掛金率 × 1/2
農家負担共済掛金は、1/2が国庫補助になりますので、農家が負担割合も1/2になります。
共済掛金率は、施設区分ごとなどで定められています。また、原則都道府県ごとで定められています。、過去の被害率を元に3年ごとに改定されます。ご参考までに「プラスチックハウスⅡ類」の平成29年度全国平均では2.394%です。
共済掛金の計算方法について、具体的な例をみてみます。NOSAIとやまのパンフレット(http://www.nosai-toyama.or.jp/project/project5.html)を引用します。わかりやすく計算例が示されています。設置面積200㎡だと概ね間口6m、奥行33mぐらいのハウスです。その場合、共済金額が394,400円、農家負担共済掛金は5,501円と試算されています。
農業を行うと様々なリスクがあり、不測の事態が起こります。天災など何かあったときは個人の力ではどうしようもないことが起こりえます。昨年の台風ではそれを体感しました。それらのリスクに備えて共済制度を活用したいと思います。
【今回の記事で参照した資料】
農林水産省の農業保険のページ(http://www.maff.go.jp/j/keiei/nogyohoken/index.html)
JA共済のホームページ(https://www.ja-kyosai.or.jp/)
NOSAI京都のパンフレット
NOSAIとやまのパンフレット(http://www.nosai-toyama.or.jp/project/project5.html)
NOSAI香川ホームページ(http://nosai-kagawa.jp/)
園芸施設共済の共済掛⾦標準率の算定⽅式について(http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kyosai/bukai/h301022/attach/pdf/index-13.pdf)
※ 園芸施設共済評価要領の別表一に標準価額が定められています。(http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/tuti/t0000859.html)