日本における農地制度の歴史

政策・制度

最近、私の周囲では農業を辞めたり規模を縮小したりする方から、「農地を引き受けてくれないか」という相談が増えてきました。しかし、こちらとしても規模拡大の意向があるわけではなく、取得や借受にはどうしても慎重になってしまいます。

就農当初と比べると、耕作されていない荒れた農地が増えた印象があります。また、年に数回の最低限の草刈りはされているものの、栽培には使われていない農地も増えています。こうした状況を見ると、今後の日本の農地がどうなっていくのか、不安な気持ちになります。私の営農する地域の農地はほとんどが水田で、水路でつながっており、荒廃が広がれば周囲の農地にも影響が及ぶためです。また、害虫などの温床になるのではないかという懸念もあります。

日本の農地の行く末を考えるうえでは、目前の状況だけでなく、歴史を大きな視点から振り返ることも重要だと思います。現代では農地を個人が所有することが当たり前になっていますが、歴史をたどれば様々な農地制度の変遷がありました。過去を知ることで未来の展望が見えてくるのではないかと考え、日本における農地制度の歴史を調べてみました。

これから顕在化してくるであろう農地問題を考える一助になれば幸いです。

日本の農地の歴史的変遷

日本の農地制度は、古代から現代に至るまでさまざまな法制度と社会の変化により形を変えてきました。以下に、主要な制度や概念を時系列に整理します。

古代の農地制度

班田収授法(はんでんしゅうじゅほう)(646年)

内容: 国家が農地を所有し、6歳以上の男女に口分田(くぶんでん)として貸与。

目的: 国家による土地管理と税収の安定化。

問題点: 口分田は世代が交代するごとに細分化され、耕作が困難になる。

三世一身法(さんぜいっしんのほう)(723年)

内容: 開墾した土地を本人・子・孫の3代まで私有を認める。

目的: 新たな土地開発を奨励し、農業生産を増やす。

結果: 私有権が限定的だったため、開墾の意欲はあまり向上しなかった。

墾田永年私財法(こんでんえいねんしざいほう)(743年)

内容: 新しく開墾した土地の永年私有を認める。

目的: 開墾を促進し、荒廃した農地の再生を図る。

結果: 貴族や寺社が大規模な開墾を進め、後の荘園制の発展につながる。

中世の農地制度

荘園(しょうえん)制度(8世紀~16世紀)

内容: 貴族や寺社が所有する私有地で、免税特権を持つ荘園が拡大。

支配構造: 荘園領主(貴族・寺社)→荘官(現地管理者)→農民(耕作者)。

小作関係: 荘園内の農民は領主に貢納を行う一方、一定の保護も受ける。

結果:国家の土地支配が形骸化し、武士が荘園の管理を担うようになる。室町時代には守護大名・戦国大名が荘園を押領し、戦国時代へ突入。

近世(江戸時代)の農地制度

地主・小作制度(17世紀~19世紀)

内容:
 地主: 農地を所有し、農民に貸し出す。

 小作人: 地主から土地を借り、年貢(小作料)を納める。

支配構造: 幕藩体制のもと、農地は幕府・大名が直接管理。

税制: 本百姓(自作農)も年貢を納め、負担がかかる。

結果:

 小作人の増加: 豊作・不作にかかわらず小作料を納めなければならず、農民の困窮が深まる。

 地主制の固定化: 地主は農民に貸し出すことで利益を得る一方、小作人の生活は不安定に。

近代の農地改革

明治時代の土地制度(地租改正・私有化)(1873年)

内容:地主や農民による農地の私有を認める。

税制:地租改正により現金納税を導入(地価の3%)。

結果:

 富裕な地主が農地を買い占め、小作人が増加。

 小作人は地主に小作料(収穫の半分以上)を納める厳しい環境に。

戦後の農地改革(1947年~1950年)

背景:第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍総司令部)の指導のもと、地主制を解体。

内容:自作農創設特別措置法により、小作人へ農地を安価で売却。地主の農地所有を制限(1戸あたり1町歩程度まで)。

農地法の制定(1952年)

内容:農地の売買・貸借を制限し、農民の土地所有権を強化。

結果:日本の農業は自作農中心となり、地主制が消滅。小作人の立場が改善し、農民の生活水準が向上。

農地の歴史を振り返って

農地の歴史を振り返ってみると、その所有主体は時代とともに少しずつ姿を変えてきました。近年では農地保全の観点から、各都道府県に設置されている「農地中間管理機構(農地バンク)」の役割が一段と大きくなっています。今後も時代に合わせて、より適切な農地管理の仕組みが整えられていくことでしょう。

一方で、農地の管理主体である農家の減少は深刻です。高齢化が進み、後継者のいない農家も多く見受けられます。若い世代の就農者は少なく、さらに規模拡大の余地がある担い手も多くはありません。また、本来なら地域の担い手となるべき集落営農法人も高齢化・組合員減少が進んでおり、状況は厳しさを増しています。また、これらは、地域によっても現状が少しずつ変わるので対応が非常に難しくなっております。

政策的な大きな提言を述べる立場ではありませんが、一農家として、自分の農地を適切に管理し、営農を続けていくことが必要であると実感しております。

参考にした書籍

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