お米の出荷価格決定の仕組みとその影響

政策・制度

私は、小規模ながらお米を生産・出荷している農家です。最近、お米の小売価格が高値で推移しており、消費者にとって負担が大きい状況が続いています。令和6年産の新米が流通しても価格は下がらず、高値のまま推移しています。一農家としてもこの状況には疑問を感じていますが、その背景には、お米の出荷価格の決まり方が特殊であることが、関係しているのではないかと思います。ここでは、農家から見た米の出荷価格の決まり方の仕組みとその問題点について解説します。お米の価格の決まり方について詳しく知りたい方の参考になれば幸いです。

出荷価格の決まり方

出荷価格の決まり方が特殊だと感じていますが、その要因は、以下の2点です。

出荷価格の根拠が見えにくい

収穫が始まってから出荷価格が決まるため、経営計画が立てにくい

農家は自分で直接、消費者に販売することもできますが、出来秋にまとめて農協や民間の集荷業者に出荷することが多いです。民間の集荷業者は大抵農協の価格の+500~1000円程度を提示してくることが多いような気がします。

出荷価格の決まり方の背景

例年、収穫が始まったころに農協から出荷価格のお達しがあります。お米の価格はその年の全国的な需給バランス(収量、消費者の需要)や国の政策(備蓄米や輸出枠)によって大きく左右されます。農協は過去の取引実績や市場価格を基準に、各地の相場を考慮して決定します。しかし、その根拠が透明化されていないことが「見えにくい」と感じる原因です。

収穫後に価格が決まる理由

収穫量や品質が確定するまで価格設定が難しいため、価格決定が後ろ倒しになりやすいです。
農協としてはリスクを最小化するため、先に価格を提示することが難しいのかもしれません。
また、日本ではお米の流通が「需給調整」と密接に関わっているため、秋の段階で最終的な価格が見えてくるケースが多いです。

民間集荷業者の提示額

民間の集荷業者は農協価格を基準に、農家からの買い取り競争を行うため少し高めに設定する傾向があります。その分、農協が取り組んでいる「地域全体を守る仕組み(流通コスト負担や品質基準)」が緩くなることもあります。

コメの価格の決まり方の歴史

現在のコメの価格の決まり方については、昨日今日決まった単純なものではありません。長い歴史的経緯がありますので、明治時代以降の米の価格についての簡単に振り返ってみます。

明治時代~戦前

明治時代には、コメの流通は市場に任されており、価格も需要と供給による自由競争で決定されていました。コメは農村経済の基盤であり、地主と小作人の関係が重要な要素でした。地主はコメを現物で受け取り、それが市場で売買されていました。一方で、天候や収穫量により価格が大きく変動するため、農民や消費者にとって不安定な時代でした。

【参考図書】戦前までの農政(地主と小作人の関係や、”大農”対”小農”の関係)が良く分かる

昭和初期~戦中

第一次世界大戦後や昭和恐慌の時期には、コメの価格が暴落し、農村の困窮が深刻化しました。昭和恐慌を背景に、政府は一時的に価格調整のための介入を行うようになりました。日中戦争以降、戦時体制下で国家によるコメの統制が強化されました。1939年には「食糧管理法」(食管法)の前身となる「米穀統制令」が施行され、政府がコメの買い上げと配給を行う仕組みが導入されました。

戦後~高度経済成長期(食管法の時代)

第二次世界大戦中の1942年、「食糧管理法」が制定され、戦後も継続して運用されました。政府が農家からコメを「政府買い入れ価格」で買い取り、消費者には「政府売り渡し価格」で供給する仕組みが確立。この制度により、価格が政府によって決定され、市場価格の自由な変動が抑えられるようになりました。主に農家の生計安定、消費者への安定供給、コメの需給調整が目的でした。高度経済成長期には、コメ余りが発生。これにより、減反政策(1970年開始)が導入され、生産調整が進められました。

平成~現在

1995年、食糧管理法が廃止され、「新食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)」に移行しました。政府の市場介入を縮小し、農家や企業が自由に販売できるようになりました。市場価格が復活し、需要に応じた価格変動が再び起こるようになりました。コメの消費量が減少する中、農家の収益性の低下が課題。ブランド米や高付加価値米へのシフトが進み、差別化を図る動きが見られます。
地域や規模に応じた適切な流通戦略が求められています。

価格の透明性・安定化への取組

このようなコメの価格の推移が農業経営や家計へ大きく影響することは、政府も問題視しております。この問題に対して、以下のような取組が行われています。
1.先物取引の導入(大阪堂島商品取引所)
2.現物市場の導入(みらい米市場)
が行われています。
また、過去には、上手くいきませんでしたが、米穀・価格形成センターという制度があり、価格の透明性、周年で価格を提示する仕組みの確立が目指されております。これらには取引総量の不足など課題が残り、一朝一夕には効果が発揮できるものではありません。しかし、将来に向け、少しずつ安定的に運営されることが農家経営の安定及び小売価格の安定にも波及してくれることを願っています

【参考図書】今回の記事を書くにあたって参考にしました

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